トリニティースクール音楽部 部室

アクセスカウンタ

zoom RSS 「芸人」の音楽

<<   作成日時 : 2011/02/04 17:10   >>

トラックバック 0 / コメント 4

それで、また北東部の音楽に戻りますが、その特徴として音楽やってる人達が
「芸人」であることに注目して欲しいんです。

ゴンザーガのかぶってる兜みたいなステージ衣装は教会で神父がかぶるものに似
ている。そういう「様式」が必要なんです。
エルバも衣装やダンスがサービス精神たっぷりで「芸能」っぽい。

芸人音楽とはつまり大衆が求める、ある様式にのっとったものと言えますね。 
歌にも歌詞にもステージにも決まりごとがある。
いつも同じようなものだけど、それを見て、聴いて聴衆はカタルシスを得る。
新奇なものが無いぶん、安心感があるというか・・・。

これに対して自由なスタイルで歌ったり演奏するほうを、仮に「自由音楽」と呼
ぶことにしましょう。自由音楽と芸人音楽を比較してみれば、いろいろ見えてく
るものがあると思う。

英米だとロックは自由音楽の最たるものだし、カントリーは芸人音楽に近い。
キャシー・マテアのステージ衣装やトラック・ドライバーをねぎらう歌詞も
陳腐と言えば陳腐、カントリーお決まりの世界でしたね。

ブエナビスタに登場したキューバの音楽家は全て芸人だった。
グロリア・エステファンは自由音楽からキューバの芸人音楽に回帰した。
サンタナもそこに回帰しているように見えます。

日本では演歌が芸人音楽にあたるのに異論は無いでしょう。

もちろん自由と芸人の中間に位置するものもある。
だけどポピュラー音楽って「芸人であること」を基本においてる人が結局強いよ
うに思う。

自由音楽とはつまり、都市部の有閑階級の音楽ですな。
いっぽう貧しい大衆・労働者、田舎の人に支持されるのが芸人音楽。
そして一般的には前者は後者を馬鹿にするきらいがある。
後者のほうも「自由音楽など軽薄なものだ」という反感を持ちがちだったり・・・。

__________________

ところがブラジルにおいては両者の対立がさほどでもない。
自由音楽の旗手だったカエターノなども伝統的な芸人音楽を
リスペクトし、自らアレンジしたり競演したりしている。

ゴンザーガと並ぶ北東部の人気者、ジャクソン・ド・パンデイロ
を聴いてください。 (おそらく50年代の歌)



少しコミカルな歌い方はまさに芸人だが、この人も多くの
MPB音楽の連中にカバーされています。

そうそう、MPB音楽についてまだ説明してなかったですね。

MPBとは Music Popular Brasileira の略で、それだけだと
ブラジル大衆音楽という訳になってしまうが、60年代半ば、
ボサノヴァ・ブームのあとに登場したブラジル独自の自由音楽のこと。

ビートルズや英米のロックやソウルにインスパイアされ、伝統にとらわれず
新しいビートや音造り、電気楽器などを駆使していた。
なかでもカエターノ、ジルベルト・ジル等、バイーア出身の一味はトロピカリズ
モという精神的な運動方針をも打ち出し、一大文化潮流となります。

MPBの代表選手はエリス、ガル、ミルトン、イヴァン・リンス、
ジョアン・ボスコなど枚挙にいとまがないが、多くが現在までトップスターで
あり続けてます。


ここで興味深いのは多くのMPB歌手たちの登場の仕方です。

60年代ブラジルではTVの歌謡ショーがあり、その全国コンクールの
優勝者が全土でスターと認められました。

歌謡ショーで得点をつけてスターを決めるなど、芸人音楽の典型でしょうが
MPBの重鎮たちの多くはここからデビューしている。
したがってMPBとは押しなべて良い意味でキャッチーだし、最低限の
派手さをそなえ、そしてなにより時代の空気を読んでいた。
1964年、軍事独裁政権が樹立したことで音楽の気分が苛烈なものに
なり、MPBが出て来たのだと僕は想像しています。


おそらく彼らは「芸人であること」を基底部に持っていたと思う。
古くからのブラジル大衆音楽、各地の民謡ふうの楽曲に背を向けては
居ないからです。

だから彼らはゴンザーガやパンデイロと言った北東部の田舎音楽、
アリ・バホーゾやドリヴァル・カイミと言った古い都会のポップス
や伝統的なサンバをどんどん取り入れた。

先進的な音楽をやっていくのに過去を否定することなく、
それら全てを土台として取り込んだ。
それに加えて世代間、階級間、地域間、人種間の対立が
激しくはないのがブラジル社会の特徴だから、
出てくる音が親和性に富んでいる。

彼らはまた先人の曲をよくカバーする。同時代人の曲でも良いものは
どんどんカバーして、自らの解釈を加えて発表するんです。

ブラジルの歌手でジョビンやカエターノ、シコ・ブアルキをカバーしたことが
無い人を探すのは困難でしょう。

下の動画はガル・コスタが戦前から活躍してたドリヴァル・カイミの曲を集めた76年のアルバムから。
直前までサイケ音楽・自由音楽をやってた彼女がいきなり古典に挑んだ格好です。



自由音楽の自由さが放縦に過ぎれば早晩破綻しますね。
ところが芸人音楽では決められたスタイルの中で自分の個性を表現できる。
五七五の俳句が限りなく雄大な自然を表現できるようなものでしょう。
様式について考える必要が無いぶん、クリエイティヴィティーに没頭出来る。
逆説ですね・・・・

芸人とは結局人を楽しませることが基本にある。

サンタナなどは「自分」とか「神様」とかを追及するあまり80年代一杯をつま
らない音楽で過ごしてしまった。自分のために音楽をやってた自由音楽家の末路
でしょう。

だけど人のバックに徹して「人を楽しませる」「共演者を盛り上げる」という芸
人の境地になってみたらたちまち良い音楽が出来るようになった、と僕は見て
います。

アメリカでカントリー音楽があまり劣化しないのも、それが芸人音楽の色が濃い
からでしょうね。伝統芸能というヤツです。

だけど僕は自由音楽を否定してるんじゃなくて、もちろんそれも大好き。
要は音楽家に「ハート」があればそれはどっちでもいい。
言いたいのはブラジル音楽は「自由」と「芸人」の境があいまいだと言うことで
す。演るほうも、聴くほうも・・・

そこで次回はブラジル最初の自由音楽、ボサ・ノーヴァ を聴いてみることにし
ましょう。



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
「芸人」の音楽!!
待ってましたという感じです。以前もコメントしましたが、洗練されたものより泥臭い、ゲテモノ、キワモノの好きな私は、「芸人」の音楽は大好きです。
好調に怒られるかもしれませんが、学校で聴いたあのイヴァンリンスのゲテモノっぷりが忘れられません。
http://www.youtube.com/watch?v=H0-BFVJ7z4I&feature=fvw
これよりもっと凄い雄叫びがアルバム内にありましたが動画見つからなかったもので。。。
スクリーミンジェイホーキンスに匹敵するものだと今でも思っています。
http://www.youtube.com/watch?v=4d5RNJEqgas&feature=related
敬愛する吾妻光良もどっから見ても芸人です。
http://www.youtube.com/watch?v=Pm-0l58o8vU
そう、芸人の音楽はなんてったって楽しいんです。
前コメントしたミンガスのバンドって前衛にも聞こえますが、私は、大道芸的な要素を感じます。
ローランドカーク、エリックドルフィー、ジョージアダムス、ジャキバイヤート・・・
そしてジョニーグリフィン。これら変態芸人はみんなミンガスバンド出身。
http://www.youtube.com/watch?v=xaMZvZApIP8&feature=related
ハードバップと呼ばれる部類かもしれませんが、洗練のかけらもありません。超絶技巧を惜しげもなく垂れ流す、芸人音楽の原点ですよね。
ホンキートンク、ジャンプ&ジャイブ、ファンク・・・芸人音楽最高です。
こんなのも芸人音楽でしょうか。
http://www.youtube.com/watch?v=CYryevHIZGw&feature=related
これはロマ(ジプシー)音楽ですが。
ynizm
2011/02/08 07:49
レス遅れてすみません

イヴァン・リンスのセカンド・アルバムはビートルズのサージェント・ペパーズ
からの影響でしょう。曲が切れ目なくつながったり、突然曲調が変わったり。
まあ人間の移り行く感情や情念を正直に流出させる手法はいろんな人が真似しましたね。

イヴァン・リンスがゲテモノだとしたら、それはあのアルバムまでで、
その後どんどん凝った音と、洗練と、冷静さをそなえていくんです。
大胆な転調と美しいメロディーが特徴ですが、僕は彼は「自由音楽」の人だと思います。ちょっと演劇的なところは英国のロック的ですね。

ローランド・カークとかを芸人と見るのは新鮮ですね。
そう見るとわかる部分もあるような・・

ジプシーの音楽っていろんなのがあるんですね。
ジャンゴ・ラインハルトくらいしか知りませんでしたが・・
まあ彼らはやはり芸人音楽でしょうか・・・

好調
2011/02/09 13:27
そうなんですよね。
私はあの凄まじいイヴァンリンスを求めて、あれ以降のものをいくつか聴いてみたんですが、みんな洗練されていて、物足りなさを感じてしまいました。
どうやら私の耳が下品なようです。すいません。。。
でもイヴァンリンスは、何聴いても凄いですよね。
前、好調も書いてましたが、どれとも比べようのないオンリーワンです。
そういえばバーデンパウエルに関する記載がまだ出てきませんが、これから登場ですかね。ブラジルギタリスト特集。
好きなんですよ、バーデンパウエル。
あんまりせかすな、ですね。
ynizm
2011/02/09 21:57


イヴァン・リンスのファースト「Agora]は、買った? ちょっとオレ、怖くてまだ聴いてないんだ。(笑)
僕は洗練されてるイヴァン・リンスも好きですが・・

ブラジル・ギタリストの系譜って実は興味あって今調べてるとこです。 ガロートっていう人がいわばジャズではウェス・モンゴメリー的な位置らしい。 ジョアン・ジルベルト、トッキーニョ、バーデン・パウエル、ホベルト・メネスカル、ラウリンド・アルメイダ、ルイス・ボンファ・・・ 変わったとこでエギベルト・ジスモンチとか。

スパニッシュ系とは違うボサ・ギターでもハファエル・ハベーロという人のテクは凄いですよ。




いずれやるます 笑


好調
2011/02/09 23:26

コメントする help

ニックネーム
本 文
「芸人」の音楽 トリニティースクール音楽部 部室/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる