ポーランド音楽(25) Martyna Jakubowicz

梅雨明けと同時に猛烈な暑さですが、日本の夏にポーランド音楽が合うとは思えませんな・・・・
とは言え今回もポーランド音楽です。 明らかに秋向けな音なんですが、この時期に聴くと少し涼しくなるかも。


マルティナ・ヤクボヴィッツ   1955年クラコフ生まれ シンガー、ギタリスト(歌のオマケ程度)、作曲家。


お父さんが、歴史、美術史、神学の評論家で週刊誌の編集長だったと言うからインテリの家系、まあ市場に媚びたような音楽はやらない。
アメリカのブルースやロック、フォークの影響が大きく、しかも世代ゆえに60年代のそう言う北米音楽である。

かつてニューヨークはグリニッジの音楽シーンについて触れたとおり、60年代のアメリカではフォークが最もナウい音楽ジャンルであり、興味深いことにフォークは黒人音楽とも合体していたのだった。
それで面白いな、と思ったのは、人気が出始める80年前後にこの人が歌っていたのがジョーン・バエズ。
アメリカに遅れること正確に10年ですな。  バエズは80年のアメリカでは、すでに全く聴かれない歌手だった。歌手引退してるしな。

ポーランドのファンク音楽などを見ると、70年代初期においては、すでにアメリカにキャッチ・アップして新しい音を活発に取り入れてきた感があるが、
フォークではそういう状況なのは、おそらく鉄のカーテンの東側にあった国ゆえに、体制批判の精神が強固だったからかと思う。

彼女は83年から昨年まで14枚のアルバムを出しているが、初期はブルースっぽい感じ。 だけど、どうしてもブルースにこの人の声が合わなくて、オレはあまり好きになれない。
その後はちょっと安易なポップスっぽいのを歌ってた時期が続きますが、21世紀になって変わってきます。
それで今回は初期、中期の彼女の音楽は省略して、2005年のボブ・ディランのカバー・アルバムから聴いて行くことに。

まずは一曲、バックの演奏アレンジも素晴らしく、たまに入るオッサンのつぶやくようなコーラスもいいが、とりわけギターがヤバい・・・・






緻密な表現力、音楽へのみずみずしい感性、バックは各楽器とも控えめだが、音楽性は極めて高く、完成された室内楽と言っていいだろう。
次もこのアルバムから。 ディランの曲ですがジョーン・バエズのヴァージョンが有名。 だけどこれはオリジナルを超えてる。






ディランの歌は常に登山中の山道からの報告であり、頂上から世界を見渡す視界が開けないところがオレが彼の音楽を苦手とするところだった。
皮肉がキツすぎてシニカルなところも気にかかる。 (日本のフォーク・シンガーの多くがディランを鑑としたのは良かったのかどうか・・・・)

ところがヤクボヴィッツ50歳の歌うディランは、60年代の若者が共有した一種の切羽詰った孤独感から自由になり、もっと滋味にあふれた奥行きのあるものに変わっている。
彼女自身が重ねた年輪から来ているのは明らかであり、若い頃だったらこんなふうには歌えなかっただろう。





次は2010年、55歳とは思えない声だが、抑制の効いた歌声で織り上げていく。 
年季が感じられる。
抑制の利いたアコーディオンがいい。





昨年発表の最新アルバムはジョニ・ミッチェル70歳の誕生日にリリースされた、ジョニのカバー集である。 おそらくヤクボヴィッツにとって、ジョニはディラン同様に特別な歌手なのだろう。
以下、「サークル・ゲーム」はこのアルバムの白眉。






俺らと俺らのちょっと上の世代にとって、映画「いちご白書」で使われたジョニ・ミッチェルのこの歌は特別な意味を持っている。(映画で使われたのは別の歌手のバージョン)
「いちご白書」という映画はアメリカの学生運動に揉まれる若者の話で、ラストは悲劇的と見ることも出来るが、最後まで迷える若者、理想を追い求める若者に、若かったオレもずいぶん感情移入をしたものだ。

「イージーライダー」同様、アメリカ映画にしては珍しくハッピーエンドで終わらない、いわゆる「ニュー・シネマ」の代表作だが、当時のアメリカや日本の若者が対立したのは「政治権力」であり、「大人たち」であったと思う。

55年生まれのヤクボヴィッツが、「いちご白書」あるいはジョニ・ミッチェル、そしてボブ・ディランを70年代のポーランドでどのように聴いたのだろうか?

共産党政権への反発は当然あったと考えられるが、大人たちへの反発は西側世界より小さかったのかもしれない、とオレが思うのは、その大人たちも、心の中ではソヴィエト支配体制を嫌悪していたに違いないからだ。 オトナと若者が連帯できたのではないか?  などと考え過ぎるのはこのブログの悪いクセですな・・・・

最近紹介してるポーランド音楽は若い人ばかりですが、オレよりちょっと上、という人の音楽もいいですね。
なんか無条件に共感できるところが・・・・






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